ストピが日本に根付くとは数年前には想像も付かなかったのですが,今,ちょっとしたブームですね。東京都庁の黄色いピアノとかいろいろなところにストピが設置され,そこから有名になるピアニストもいっぱい出てきました。
私が一度は遭遇したいピアニストといえばフォルテくん。「僕,フォルテ」というYoutubeチャンネルで,楽しい動画を公開されています。
フォルテくんの動画を初めて見たのは2019年。まだコロナ禍の前です。冬なのに黒のランニングシャツにムキムキの腕,なんかピアニストとは思えない風貌。格闘家みたいだなあ,と言うのが第一印象。ピアノ初心者の振りをして弾き始めたのが,ショパンのエチュード作品10の1。これ,超超超難曲です。私もこのエチュード練習したことがありますが,まともに最後まで通せない。テンポを落としてやっと。ところがフォルテくんは疾風のごとく華麗に弾くのです。
な,なんなんだ!?このマッチョな格闘技家風のピアニストは?
このときからYoutubeでフォルテくんの追っかけを始めました。
いや,実に面白い方です。
・音大でなく国立大学教育学部出身。
・お笑い芸人かと思うほど面白いおちゃらけ芸。
・ムキムキの筋肉だけあって,筋トレや食事について専門家レベルの知識。
・商才豊か。ピアノ以外にもアパレルなど事業拡大。
・お若いのにイクメンぶり発揮。抱っこひもでかわいい赤ちゃんを抱っこしてストピにしばしば登場。
私が最もフォルテくんに注目している点は,クラシックに軸足を置いているところ。この方,ショパンコンクールin Asiaで,音大生を押しのけて優勝しているだけあって,音楽は正統派のクラシックピアニスト。
レパートリーはショパン,リスト,ベートーベンなど,クラシックのど真ん中です。ストピでよく演奏されているのは,「ラ・カンパネラ」「英雄ポロネーズ」「エチュード」など,だれもが一度は聞いたことがあるクラシックの名曲です。しかも,どの演奏も完成度が非常に高く,これを街のピアノで偶然にも聞ける人がうらやましい。
このできあがった作品演奏の一方,練習動画をたくさん出していらっしゃいます。譜読みの段階から,ゆっくりなテンポで練習したり,難関な部分を丁寧に練習したりする動画などを見ると,「血のにじむような練習を幼少期からずっとしてきたんだろうな。」と想像できます。辻井伸行さんにしろ牛田智大さんにしろ,根っからの練習好きだそうですから,クラシックピアニストは地道な練習をいとわないという性質がデフォルトなんだなあと感じます。
フォルテくんの人気に火が付いた頃,コロナ禍の時代になり,ステージでの生演奏を聴くのは難しくなりました。でも,Youtubeで演奏動画をずっとアップし続けています。演奏動画だけでなく,フォルテくんの日常やら音楽に関することやらとにかく表現者としての幅が広い方です。
すごいのは演奏だけではありません。この若さにしてファツィオリのグランドピアノを購入され,そのピアノを持ち込んでのコンサートもあることです。ファツィオリはスタインウェイほどの知名度はありませんが,知る人ぞ知るコンサートピアノです。昨年秋のショパンコンクールでは優勝者のブルース・リウさんが好んで弾いていたのは記憶に新しいところ。私はまだ生でファツィオリの音色を聞いたことがありませんが,いつか聞いてみたいです。それにしてもすごいな。この若さでファツィオリを買うなんて。一千万円は下らないと思いますが。
ショパンコンクールのことを深く知りたい方におすすめの本です
ファツィオリのピアノの音色を楽しむCD