2009年に辻井伸行さんが日本人初の優勝を成し遂げたクライバーン国際ピアノコンクールが現在開催中で,演奏もライブ配信されています。
コンクールの名前にも掲げられているピアニスト ヴァン・クライバーンは米ソ冷戦中に旧ソビエトでのチャイコフスキーコンクールでセンセーショナルな優勝を成し遂げたピアニストです。アメリカ人ピアニストがソ連での伝統ある国際コンクールでソ連勢を押しのけて優勝,ときが冷戦中だったこともあり話題になりました。
ウクライナ侵攻問題を受けてチャイコフスキー国際コンクールは現在コンクールから除外されていますが,クライバーン国際ピアノコンクールにはロシア出身のピアニストも参加していて,音楽の世界では政治抜きの健闘を祈りたいと思います。
さて,2022年の現在開催中のクライバーンコンクールでは何人か個人的に注目しているピアニストがいます。
ケイト・リウ
前々回のショパンコンクールで3位になったピアニスト。ショパンコンクールでの夢見るようなはかない陽炎のような表情で鍵盤をさっとなでるようなタッチ,細いからだから圧倒的な強靱な響き,なんともふしぎな人間離れした印象でした。ショパンのピアノソナタ3番,バラード4番の名演は忘れられません。
ティアンス・アン
藤田真央さんが2位の快挙を成し遂げたときのチャイコフスキー国際コンクールで4位になったピアニスト。ファイナルでコンツェルト2曲を弾くのですが,なんと演奏曲順が違っていたのです。アンさんはチャイコフスキーが先だと思っていたのに,オーケストラが始めたのはラフマニノフの「パガニーニの主題による狂詩曲」。この曲はオーケストラの序奏が瞬時に終わり,すぐピアノの出番が・・・。チャイコフスキーのつもりで悠然と構えていたアンさんが,パガニーニの序奏が始まったとたん,「何が起こったんだ!?」という驚愕の表情で目を見開き,それでもオーケストラに演奏に必死に合わせていきました。この様子をライブ配信で見ていたのですが,よくパニックにならずにあわせたものだともう感激しました。主催者側は今回のハプニングについて謝罪し,審査員長は演奏のやり直しを提言しましたが,アンさんはやり直しをせずに4位を受賞。このオーケストラとの演奏がアンさんにとって初めての協奏曲の体験だというから驚きです。ファイナルに残ること自体,すごいことですが。今回のクライバーンでは実力発揮されることを祈ります。
亀井聖矢
PTNAと日本音楽コンクールを同年に両方とも優勝したという前代未聞の快挙を成し遂げた天才ピアニスト。まだ20歳ながらもうキャリアをかなり積み上げている方です。このコンクールではどんな新しい面を見せてくれるのか期待大です。ピアノソロはもちろんのこと服部百音さんのバイオリンとのフランクのバイオリンソナタ,角野隼斗さんとのラフマニノフの2台ピアノの演奏(確かタランティラ)など,ソロに限定しないいろいろな音楽の世界があるピアニストなので,ソロだけではない多方面での演奏を課されるクライバーンには向いていると思います。
それにしてもいい時代です。はるか遠い地で行われているコンクールの演奏が安定したライブ配信で聞けるようになったのですから。